エリザベス・ホームズが19歳で創業したセラノスというスタートアップ企業を聞いたことがあるひとも多いのではないだろうか。
一滴の血液から200種類もの病気の有無を調べられると謳い、企業評価額は一時約1兆円にもなった。女性創業者初の大型ユニコーンだと持て囃され、総資金調達額はなんと14億ドル(1476億6700万)。
しかしながら、2015年には倒産に追い込まれ、スタートアップ企業史上最大の詐欺師とまで言われるようになってしまった。
そんな彼女の急速な失墜の裏側には、シリコンバレー特有のある文化が大きく影響を与えていた。
1. 時価総額1兆円のユニコーンへ
2. 崩れ去る砂上の楼閣
3. シリコンバレーの弱点ーなぜホームズはジョブズになれなかったのか
Pro会員の皆さまは、本記事最下部よりJawboneが倒産に到るまでのヒストリーマップをDLしていただけます。
(medium.com)
当時まだスタンフォード大学の学生だったエリザベス・ホームズは、アメリカの医療事情に目をつけた。
アメリカでは、血液検査を行うだけで15万円ものお金を支払う必要がある。さらに、大手2社の寡占状態が続いており、どちらかの検査ラボまで行く必要もあった。
彼女はここに目をつけ、「血液一滴だけで検査をできる」サービスがあればいいな、と考えた。痛くない採血。価格も従来の半額以下で、結果も数時間で携帯電話に届く。それはアメリカに住む人間にとって、血液検査を変革する夢の技術だった。しかし、あくまでもそれはアイディア段階のものであった。
そうして彼女は大学を中退し、「セラノス」を設立。 彼女の考えは、女性であるということを除いても、多くの投資家たちを惹きつけた。 スティーブ・ジョブズを真似たような黒いタートルネックと、気取った彼女の低い声が彼女のカリスマ性を引き立て、「医療界に革命を起こす」技術と共に、一躍時の人として躍り出た。
実際、彼女の投資家は錚々たるメンツが揃っている。
・サム・ウォルトン(ウォルマートの創業者)
・ルパート・マードック(アメリカのメディア王。ニューズ・コーポレーション及び21世紀フォックスのCEO)
・ティム・ドレイパー(投資家。彼のポートフォリオにはBaiduやHotmail、Skypeなどが並ぶ)
だ。
アメリカ薬局大手のウォールグリーンズと血液検査を店頭で提供する契約も結び、実際にリリース後の道筋まで出来上がっていた。
1476億6700万円の資金調達を受け、時価総額1兆円に上り詰めた彼女はForbesや Fortuneの表紙も飾り、軍人や閣僚といった政府の人物もセラノスに入社し始めた。
時価総額1兆円といっても、ピンとこない人も多いだろう。
日本企業で時価総額1兆円前後の企業は、
電通 1兆786億5300万円
キッコーマン 1兆140億900万円
ヤマハ 1兆18億3300万円
だ。上場済みの大手が並んでいる。余談ではあるが、先日上場したSlackの時価総額は2.5兆円だ。
資金調達1476億6700万億円という数値も莫大だ。
例えば2018年に国内で調達した金額の最高額はペプチスターの200億円。次点でJapanTaxiの123億円だ。
2017年だとPreferred Networksが128億円の調達に成功している。そもそも国内の全資金調達を合わせても、2717億円だ。その半分以上の額を、セラノスが一社で調達したのだ。それこそ夢のような金額だということがわかるだろう。
他にも近い金額でいうと、ファーウェイがアメリカの経済制裁に対応するためにシンジケートローン計画で組んだ金額が1630億円。
デリバリーサービスでUber Eatsなどと競合しているDoorDashの総資金調達額も、およそ14億ドルだ。DoorDashはアメリカ全土で使えるレストランデリバリーサービスで、最近ウォルマートと提携し、スーパーから食品を配達するサービスも行なっており、なんとシリーズF。
そう考えると、彼女がシリコンバレーから受けていた期待の大きさがわかるかもしれない。
しかし、実際に蓋を開けてみると、そんな血液検査は存在しなかった。彼女が投資家たちに提示していた実施事例は架空のものだったのだ。